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✅ 結論:下りの膝の痛みは、根性や体力の問題ではありません
- 階段を下りるとき、膝のお皿の裏の関節には体重の約2.8倍の力がかかります。平地を歩くときの3倍以上です
- 原因は大きく3つあります。膝を支える太ももの筋肉の疲れ・お皿の裏の関節への負担・膝の外側の組織
- どこが痛むかで、原因の見当がつきます
- 対策の中心は、筋力でも我慢でもなく「膝を深く曲げない歩き方」です
2026年8月、私たちは富士山に登りました。山頂から下り始めて30分ほどたったころ、しょうの左膝に痛みが出ました。
歩けないほどではありませんでした。ただ、はっきり痛むとわかる程度です。かばって歩いたせいで、反対の右脚にも疲れがたまっていきました。
下山後も痛みが残り、整形外科を受診しました。MRIの結果は腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)。医師から3週間の安静を指示され、そのあいだは階段がつらく、通勤で駅まで歩くことも負担だったそうです。
登山は2日間で終わりましたが、体への影響は3週間続きました。詳しい経過は富士山の下山3時間30分で、体に何が起きたか|筋肉痛と腸脛靭帯炎に書いています。
「登りは平気だったのに、下りで膝が痛くなった」。登山をしていて、この経験がある方は少なくないと思います。そして多くの場合、「体力がないからだ」「年齢のせいだ」と片づけられてしまいます。
しかし、これは体力の問題ではありません。下りという動作そのものが、膝にとって特別に厳しいのです。理学療法士の私たちでさえ、こうして痛めました。
この記事では、下りで膝がつらくなる仕組みを3つに分けて説明し、痛む場所から原因の見当をつける方法と、今日の山行から変えられる対策をお伝えします。
この記事でわかること
- 下りで膝にかかっている力の大きさ(数字でわかります)
- 膝がつらくなる3つの原因と、それぞれの仕組み
- 痛む場所から、どの原因かを見分ける目安
- 歩き方・道具・休憩でできる対策
目次
- まず、下りの膝に何が起きているのか
- 原因①:膝を支える太ももの筋肉が、先に疲れる
- 原因②:お皿の裏の関節に、体重の3倍近くがかかる
- 原因③:膝の外側で、組織がこすれる
- どこが痛むかで、原因の見当がつきます
- 今日からできる4つの対策
- まとめ:下りは「我慢する場面」ではありません
まず、下りの膝に何が起きているのか
まずは、わかりやすく数字から触れていきます。
膝のお皿の裏側には、お皿と太ももの骨がこすれ合いながら動く関節があります(膝蓋大腿関節)。膝を曲げ伸ばしするたびに、ここに力がかかります。
その力は、動作によって大きく変わります。
| 動作 | お皿の裏の関節にかかる力 |
|---|---|
| 平地を歩く | 体重の約0.9倍 |
| 階段を下りる | 体重の約2.8倍 |
※ いずれも膝に痛みのない人を対象にした研究の平均値です(出典は記事の最後にまとめています)。
体重60kgの方なら、平地では約54kg、階段を下りるときには約168kgの力が、お皿の裏にかかっている計算になります。平地の3倍以上です。

なお、しゃがむ動作のように膝を深く曲げる動きでは、研究によって体重の1倍から18倍まで、報告に大きな幅があります。
下りがつらいのは、気のせいでも根性不足でもありません。実際に、桁違いの力がかかっています。
なぜ下りだけ、こんなに大きいのか
坂や階段を下りるとき、体は重力で落ちていこうとします。それを止めているのが、太ももの前の筋肉です。
このとき筋肉は、縮むのではなく、引き伸ばされながら力を出しています。車でいえば、アクセルではなくブレーキの役割です。
日本理学療法学術大会で発表された研究でも、この様子が確かめられています。若い男性11人に芝生の下り坂(0度・10度・20度)を歩いてもらったところ、坂が急になるほど、着地したあとも膝を伸ばしきらず、曲げたまま歩くようになりました。下り10度では、着地の直後に膝が曲がっていく動きに急ブレーキがかかっていて、太ももの前の筋肉が強く働いていると考えられています。
このブレーキを、下山のあいだ何千歩も繰り返します。富士山の吉田ルートなら、山頂から五合目(約2,305m)まで、標高差およそ1,400mを下ります。これが下りの正体です。
原因①:膝を支える太ももの筋肉が、先に疲れる
最初に起きるのは、膝を支えている筋肉の疲れとダメージです。痛みが出るのは膝そのものではなく、太ももの前やふくらはぎですが、ここが膝のトラブルの入口になります。
海外の研究では、坂を下りるときの太ももの前とふくらはぎの筋肉は、坂を上がるときよりも大きな負担を受けることが報告されています。そして、ブレーキをかける使い方で起きる筋肉痛は、1日以内に現れて3〜4日続くとされています。
「下りのほうがラクなのに、あとで痛い」のは気のせいではありません
同じ研究では、坂を下りる運動は、坂を上がる運動より心拍数も運動中の疲れも少ないのに、翌日の筋肉痛は明らかに強かったと報告されています。
ここが、下りのいちばん怖いところです。その場では、負担がかかっている自覚を持ちにくくなります。
息が上がらず、汗もかかず、どんどん標高が下がっていく。気分としては「ラクに進んでいる」。それなのに、体の内側では一歩ごとにダメージが蓄積しています。
実際、私たちが富士山を下ったときも、3時間30分のうち15分しか止まりませんでした。疲れていないから止まらなかったのではなく、疲れている自覚がなかったからです。
筋肉が疲れると、膝の負担が増えます
この筋肉痛そのものは、多くの場合、数日で落ち着きます。
問題は、疲れた筋肉では、膝を支えるブレーキが効きにくくなることです。着地の衝撃を筋肉で受け止めきれなくなると、そのぶんが関節や、膝の外側の組織にかかります。原因②と③は、この状態で起きやすくなります。
原因②:お皿の裏の関節に、体重の3倍近くがかかる
次が、関節そのものへの負担です。
冒頭の表のとおり、階段を下りるとき、お皿の裏の関節には体重の約2.8倍がかかります。そして大事なのは、膝を深く曲げるほど、この力が大きくなるということです。
ここから、対策がひとつ導けます。
膝を深く曲げなければ、力は小さくて済みます。
段差を一度に大きく下りると、上の段に残って体を支える脚の膝が深く曲がります。小さく刻んで下りれば、膝はそれほど曲がりません。歩幅を小さくすることには、はっきりした理由があります。
この原因による痛みは、お皿のまわり、お皿の下あたりに出ます。階段を下りるときや、しゃがんだときに痛むのが特徴です。
原因③:膝の外側で、組織がこすれる
3つめが、膝の外側の痛みです。冒頭でお話しした、しょうの痛みがこれでした。
骨盤の外側から太ももの外側を通り、膝の下まで伸びる、腸脛靭帯という丈夫な組織があります。ここに炎症が起きると、膝の外側が痛みます。これが腸脛靭帯炎で、海外の研究ではランナーの膝の外側の痛みの原因として最も多いものとされています。
そして、はっきりした関連が報告されているのが下り坂です。坂の傾きが強くなるほど腸脛靭帯が強く引っ張られ、下り坂を走ることは腸脛靭帯炎の危険を高めると報告されています。予防のために、下り坂を走ることを避けるようにすすめられてもいます。
なお、これらの研究はいずれもランニングを対象にしています。登山の下りは走るわけではないため、そのまま当てはめられるとは限りません。ただし、膝の曲げ伸ばしを繰り返しながら坂を下り続けるという点で、動きの性質は近いと考えています。
しょうの場合も、3時間30分で1,400m前後を下ったことが引き金になった可能性は高いと考えています。ただし、それ以前の運動量や体の使い方も関わるため、原因をひとつに決めることはできません。
どこが痛むかで、原因の見当がつきます
ここまでの3つを、痛む場所でまとめます。

| 痛む場所 | 考えられること | 痛みの出方 |
|---|---|---|
| 太ももの前・ふくらはぎ | 膝を支える筋肉の疲れとダメージ | 鈍い痛み。翌日〜数日がピーク |
| お皿のまわり・お皿の下 | お皿の裏の関節への負担 | 階段を下りるとき、しゃがんだときに痛む |
| 膝の外側 | 腸脛靭帯への負担 | 歩くたびに同じ場所が痛む。休んでも引きにくい |
この表は、あくまで見当をつけるためのものです。診断ではありません。
特に注意していただきたいのが、いちばん下の膝の外側です。筋肉痛は数日で引きますが、腸脛靭帯炎は数週間かかることがあります。しょうの場合は3週間でした。
また、しょうの痛みは膝の外側でしたが、膝の裏も、下りで痛みが出やすい場所です。表には入れていませんが、注意してください。膝の裏の痛みについては、別の記事で詳しくまとめる予定です。
下りで膝を守る歩き方は、理学療法士しょうのnoteで詳しく解説しています。→ 「下山で膝が痛い人へ|理学療法士が教える”疲れにくい歩き方”」(有料note・無料公開部分あり)
下山から数日経っても痛みが引かない場合、腫れている場合、強い脱力がある場合は、自己判断せず医療機関を受診してください。我慢して歩き続けることが、いちばん回復を遅らせます。
今日からできる4つの対策
① 歩幅を小さくする
いちばん効果がはっきりしていて、道具もお金もかからない方法です。
原因②で書いたとおり、膝を深く曲げるほど、お皿の裏の関節にかかる力は大きくなります。段差を一度に大きく下りれば膝は深く曲がり、小さく刻めば曲がりは浅くて済みます。
下りで歩幅が大きくなるのは、重力に任せたほうがラクだからです。意識していないと、自然と大股になります。
大股で下りると、もうひとつ困ったことが起きます。遠くの段に足を伸ばすぶん、体はバランスをとるために、重心を後ろに残さざるを得なくなります。腰が引けた姿勢です。重心が後ろに残ると、支えている脚の膝が深く曲がり、膝への負担が増えやすくなります。理学療法士として見ると、大股と後ろ重心はセットで起きています。
小さく刻めば、上半身を足の真上に置いたまま下りられます。

※ 違いが分かりやすいように、姿勢は少し大げさに描いています。大股と小刻みのちがいを、イメージとしてつかんでください。
「下りは小さく刻む」とだけ覚えておいてください。
② ストックを使う
ストック(トレッキングポール)は、登りの道具だと思われがちです。しかし、本当に効くのは下りです。
前に突いたストックに体重の一部を預けられれば、そのぶん膝にかかる力が減ります。
使い方と長さの合わせ方については、別の記事で詳しくまとめる予定です。
③ 下りでも休憩を入れる
これは、私たち自身ができていなかったことです。
登りでは息が上がるため、自然と休もうという気になります。下りは息が上がらないので、止まるきっかけがありません。その結果、気づかないうちに何十分も歩き続けることになります。
下りでは「疲れたら休む」ではなく、「疲れていなくても、決めた間隔で休む」という考え方に切り替えてください。
休憩の取り方については登山で差がつく休み方|疲れを残さない小休止・大休止の使い分けにまとめています。
④ 痛みが出たら、その場でペースを落とす
最後は、道具でも技術でもなく、判断の話です。
痛みが出たときに「歩けるから大丈夫」と続けてしまうと、かばって歩くことで反対側にも負担がかかります。しょうの場合がまさにそうでした。片側の痛みは、片側だけの問題では終わりません。
痛みが出た時点で、歩幅を小さくし、休憩を増やし、下山にかける時間を延ばす。これだけで、その後の数週間が変わる可能性があります。
なお、体重が重いほど膝にかかる力も大きくなります。これは体力や根性の話ではなく、単純な力の大きさの問題です。私たち自身もそこに向き合っている最中で、その経緯は登れなくなる前に|体重100kg超の理学療法士が、登山のために体を変えることにしたに書いています。
まとめ:下りは「我慢する場面」ではありません
- 階段を下りるとき、膝のお皿の裏の関節には体重の約2.8倍がかかります。平地の3倍以上です
- 痛みの原因は膝を支える筋肉の疲れ・お皿の裏の関節・膝の外側の3つに分けて考えられます
- 膝の外側の痛みは、数週間続くことがあります。引かないときは受診してください
- 対策の中心は歩幅を小さくすること。膝を深く曲げなければ、かかる力は小さくなります
登りは、頑張れば進めます。息が上がっても、休めば回復します。
下りは違います。その場で感じるつらさと、体が受けているダメージが一致しません。だからこそ、感覚ではなくあらかじめ決めたルールで歩く必要があります。歩幅を小さく、休憩は時間で区切る。この2つだけでも、下山後の数日が変わります。
山頂に立つことがゴールではありません。無事に下りて、翌週もいつもどおり歩けていること。それがゴールです。
知識は、一番軽い登山道具です。
参考文献
- 藤堂庫治・小林寛和・清水卓也「下り坂歩行における傾斜角度の増加に伴う膝関節運動の変化」第45回日本理学療法学術大会 抄録(O1-101)
- Hart HF ほか. May the force be with you: understanding how patellofemoral joint reaction force compares across different activities and physical interventions. British Journal of Sports Medicine, 2022.(PubMed/日本語以外の解説:Physiotutors)
- Effect of downhill walking on next-day muscle damage and glucose metabolism in healthy young subjects.(PMC)
- Muscle damage from eccentric exercise: mechanism, mechanical signs, adaptation and clinical applications.(PMC)
- Biomechanical risk factors associated with iliotibial band syndrome in runners: a systematic review.(PMC)
- Effect of downhill running on biomechanical risk factors associated with iliotibial band syndrome.(論文情報)
- Iliotibial Band Syndrome: Background, Etiology, Epidemiology.(Medscape)
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本記事は、理学療法士としての知見と公表されている研究にもとづいて作成していますが、個別の診断を行うものではありません。痛む場所から原因の見当をつける表は目安であり、診断ではありません。痛みが続く場合、腫れや強い脱力をともなう場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。