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✅ 結論:下りの負担は、その場では自覚できません

  • 下山は3時間30分。成就岳から五合目まで、標高差にしておよそ1,400mを下りました
  • 富士山には高山病をはじめ他のリスクもありますが、今回の私たちに関しては、下りが最も大きな代償を残しました
  • ひとりは下り始めて30分で左膝が痛み出し、後日の受診で腸脛靭帯炎と診断され3週間の安静になりました
  • もうひとりはふくらはぎ → 太ももの前 → お尻 → 背中の順に痛み、消えるまで2〜4日かかりました
  • 下りは息が上がらないぶん、負担を自覚しにくいのが怖いところです

この記事は、富士登山の実録3本目です。1本目では五合目から山小屋までの1日目を、2本目では深夜の出発から山頂の郵便局までを書きました。

最後は、下山です。

登山の記事は、たいてい山頂で終わります。しかし、体にとっての本番はそのあとに来ます。

今回、私たち2人のうち1人は、下山をきっかけに3週間の安静を言い渡されました。この記事では、下山にかかった時間と、そのあと体に起きたことを、できるだけ正直に記録します。

この記事でわかること

  • 吉田ルートの下山にかかった実測タイム
  • 下り始めて30分で膝に異変が起きたときの、実際の経過
  • 下山後にどの筋肉が、どの順番で、何日痛んだか
  • なぜ下りのほうが体を痛めやすいのか

目次

  1. 下山の記録(データ)
  2. 88分、止まらずに下り続けた道
  3. 下り始めて30分、しょうの膝に異変が起きました
  4. だいの体に起きたこと──4日間の記録
  5. 持っていった水5Lは、ちょうどよかった
  6. 次に登るなら、変えたい3つのこと
  7. まとめ:富士山は、終わってから教えてくれることがある

下山の記録(データ)

項目記録
下山開始9時31分(成就岳)
五合目到着13時01分
所要時間3時間30分
下った高さ標高差およそ1,400m(成就岳 → 五合目)
止まっていた時間約15分

※ 登山アプリが記録した「2日目の下り」は1,573mですが、これはお鉢巡りのアップダウンを含む1日の合計です。下山区間だけなら、標高差でおよそ1,400mになります。

時刻地点
9:31成就岳(下山開始)
10:01胸突江戸屋
10:11 〜 10:14江戸屋
10:16 〜 10:17須走口登山道 八合目
11:45 〜 11:56吉田口下山道 七合目
11:58獅子岩
12:30六合目
12:46泉ヶ滝
13:01五合目 到着

※ 地点名は登山アプリの表記をそのまま使っています。

この表で注目していただきたいのは、止まっていた時間が約15分しかないことです。

1日目、私たちは2時間58分のうち49分を休憩に使いました。2日目の登りでも、4時間40分のうち1時間8分止まっています。ところが下りでは、3時間30分のうち15分しか止まっていません。

このことが、あとで効いてきます。


88分、止まらずに下り続けた道

吉田ルートは、下りが別の道になります

吉田ルートの特徴のひとつが、登りと下りで道が分かれていることです。登ってきた山小屋だらけの道ではなく、八合目から専用の下山道に入ります。

富士スバルライン五合目まで5.7km、吉田口まで17.4kmと示す下山道の道標。背景は雲海

10時16分、須走口登山道の八合目を通過して下山道に入りました。次に止まったのは、吉田口下山道の七合目です。到着は11時45分。

88分、一度も止まっていません。

霧のかかった下山道を、ザックを背負って下りていく後ろ姿

止まる理由が、見つからない道です

この区間には、山小屋がありません。自動販売機もトイレもなく、景色もほとんど変わりません。赤茶色の砂礫の斜面を、大きなジグザグを描きながら、ひたすら下り続けます。

登りの道には山小屋が次々と現れて、「あと少しで次の小屋」という目印になりました。下山道には、それがありません。

結果として、止まる理由がなくなります。疲れていないから止まらないのではなく、止まるきっかけがないまま進んでしまう、という表現のほうが正確です。

休憩の取り方については登山で差がつく休み方|疲れを残さない小休止・大休止の使い分けにまとめています。しかしこの日の私たちは、自分で書いたことを下りで実行できていませんでした。

石畳の敷かれた道と、その先に続く樹林帯。六合目から下は再び森に入る

11時58分に獅子岩を過ぎ、12時30分に六合目へ。ここで登りの道と合流し、13時01分に五合目へ戻りました。


下り始めて30分、しょうの膝に異変が起きました

登りでは、余裕があったはずの側です

1本目の記事で、登りのペースは遅いほう、つまりだいに合わせたと書きました。しょうにとっては物足りない速さだったはずです。山頂まで、しょうに体調の問題はいっさい起きていません。

その関係が、下りで逆転しました。

下り始めて30分ほど経ったころ、しょうの左膝に痛みが出ました。

歩けないほどではない。しかし、はっきり痛む

最初から動けなくなるような痛みではありませんでした。歩みを止めるほどではなく、下山は続けられています。

ただ、気のせいで済ませられる程度でもありませんでした。明確に痛む、とはっきり自覚できる痛みです。

そして、痛む左脚をかばって歩いた結果、右脚の疲労も強くなっていきました。片側の痛みは、片側だけの問題では終わりません。反対側が余計に働くことになります。

ここから、登りとは逆に、しょうのほうが遅いペースになりました。

後日の受診で、腸脛靭帯炎と診断されました

下山後も痛みが残ったため、しょうは整形外科を受診しました。

MRIを撮った結果、診断は腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)。医師からは3週間、運動と登山を控えるよう指示されました。

腸脛靭帯は、骨盤の外側から太ももの外側を通って、膝の下まで伸びる丈夫な組織です。ここに炎症が起きると、膝の外側に痛みが出ます。

日常生活への影響は、決して小さくありませんでした。階段がつらく、電車通勤のために駅まで歩くことも負担だったとのことです。登山そのものは2日間で終わりましたが、体への影響は3週間続いたことになります。

下り坂は、腸脛靭帯への負担を高めます

腸脛靭帯炎は、ランナーに多い障害として知られています。ランナーの膝の外側の痛みを起こす原因として、最も多いものとされています(出典:Biomechanical risk factors associated with iliotibial band syndrome in runners: a systematic review)。

そして、はっきりした関連が報告されているのが下り坂です。坂の傾きが強くなるほど腸脛靭帯にかかる張力が増し、下り坂を走ることは腸脛靭帯炎の危険因子を高めると報告されています(出典:Effect of downhill running on biomechanical risk factors associated with iliotibial band syndrome)。予防の観点からも、下り坂を走ることを避けることが挙げられています(出典:Iliotibial Band Syndrome: Background, Etiology, Epidemiology)。

ここで正直にお伝えしておきたいことが、2つあります。

ひとつは、これらの研究がランニングを対象にしているということです。登山の下りは走るわけではありませんし、同じように当てはめられるとは限りません。ただ、膝の曲げ伸ばしを繰り返しながら坂を下り続けるという点では、動きの性質は近いと考えています。

もうひとつは、今回の痛みが「富士山の下りだけが原因」とは言い切れないということです。それ以前の運動量や体の使い方も関係します。1,400m前後を3時間30分で下ったことが引き金になった可能性は高いと考えていますが、断定はできません。

なお、膝が痛くなる仕組みと対策については、登山の下りで膝が痛くなる3つの原因|外側・お皿まわり・太ももで詳しくまとめています。

休憩を入れていたら、違ったのでしょうか

わかりません。

ただ、88分間止まらずに下り続けたことが、体に良かったとは思えません。少なくとも、痛みが出た時点でしっかり止まり、ペースを落とす判断はできたはずです。

実際には、「歩けるから歩いた」というのが正直なところでした。


だいの体に起きたこと──4日間の記録

もう一方のだいは、膝の痛みは出ませんでした。その代わり、全身に筋肉痛が出ています。

痛くなった順番と、消えるまでの日数

順番場所(筋肉の名前)気にならなくなるまで
1ふくらはぎ(下腿三頭筋)4日
2太ももの前(大腿四頭筋)3日
3お尻(大殿筋)2日
4背中全体2日

日常生活への影響は、階段の上り下りが少しつらい程度でした。仕事に支障が出ることはありませんでした。

なぜ、下りでふくらはぎと太ももの前が痛むのか

この2つが上位に来たことには、はっきりした理由があります。

坂を下りるとき、足は体が落ちていくのをブレーキをかけながら支えています。太ももの前の筋肉は、膝が曲がる速さを重力に逆らって抑え続けます。ふくらはぎも同じように働きます。

このように、筋肉が引き伸ばされながら力を出す使い方を、伸張性収縮(しんちょうせいしゅうしゅく。エキセントリック収縮とも呼びます)といいます。

研究では、坂を下りるときの大腿四頭筋と下腿三頭筋は、坂を上がるときの使い方よりも大きな機械的な負担を受けることが報告されています(出典:Effect of downhill walking on next-day muscle damage and glucose metabolism in healthy young subjects)。

そして、遅れてやってくる筋肉痛は、この伸張性収縮によって起こりやすく、24時間以内に現れ、3〜4日続くとされています(出典:Muscle damage from eccentric exercise: mechanism, mechanical signs, adaptation and clinical applications)。

だいのふくらはぎが4日、太ももの前が3日で落ち着いたのは、この報告とほぼ一致しています。

「下りのほうがラクなのに、あとで痛い」のは気のせいではありません

同じ研究では、坂を下りる運動は、坂を上がる運動より心拍数も運動中の疲労感も低いのに、翌日の筋肉痛は明らかに強かったと報告されています(出典:同上)。

これは、多くの方が経験的に感じていることだと思います。下っているあいだは息も上がらず、楽に進んでいるように感じます。それなのに、翌日になると動けない。

下りの負担は、その場では自覚しにくいということです。

だからこそ、下りでは「疲れたから休む」ではなく、「疲れていなくても、決めた間隔で休む」という考え方が必要になります。私たちが88分止まらなかったのは、この原則から外れていました。

具体的な間隔について、私たちは次回「下りは30分ごとに一度止まる」というルールを試すつもりです。ただし、下りの休憩間隔について確かな根拠を示した資料は見つけられませんでした。これは研究にもとづく推奨ではなく、今回の反省から決めた私たちの実践予定です。

お尻と背中については、推測です

お尻(大殿筋)と背中が痛んだ理由については、確かなことは言えません。

お尻の筋肉も下りで体を支える働きをしますし、背中についてはザックを背負い続けていたことの影響が考えられます。ただ、これは私たちの推測であり、根拠となる文献を確認したうえで書いているわけではありません。

はっきりしているのは、下りで痛むのは足だけではないということです。


持っていった水5Lは、ちょうどよかった

今回の水分は、次のとおりです。

内容量
水 2L × 2本4L
スポーツドリンク 500ml × 2本1L
合計5L

結論から言えば、量としてはちょうどよかったと思います。1日目の3時間と、2日目の13時間。合わせて16時間近い行動で、下山まで足りなくなることはありませんでした。

山小屋でも飲み物は購入できますが、標高が上がるほど価格も上がります。多めに持ち上げる判断は、間違っていなかったと考えています。

この5Lは、日帰りの目安とは別の数字です

富士登山、今からでも間に合うでは、持っていく飲み物を「最低1.5〜2L」とお伝えしています。あちらは日帰りを想定した1日分の目安です。今回は1泊2日で行動時間が16時間近くあったため、前提がまったく違います。日帰りか山小屋泊かで、必要な量は大きく変わります。

さらに、必要な量は体格によっても前後します。だいは体重105kgで登っており、同じ行程でも汗の量は人によって違います。誰かの持ち物リストをそのまま真似するのではなく、自分の体に合わせて増減させてください。

水は、飲むためだけのものではありません

見落としがちですが、水には飲む以外の使い道があります。

今回でいえば、山小屋で歯を磨いたあと、口をゆすぐのに使いました。顔や手を拭きたくなる場面もあります。こうした用途を計算に入れていないと、飲む分が足りなくなります。

少し余裕を持たせておくと、こういうときに困りません。

課題は、容器のかさばりです

2Lのペットボトルは、ザックの中で場所を取ります。しかも中身が減っても容器の大きさは変わりません。次に登るときは、飲み終わったら小さくたためる容器を試そうと考えています。


次に登るなら、変えたい3つのこと

① 体を軽くしてから登る

今回、だいは体重105kgで登りました。登頂はできましたし、足を痛めることもありませんでした。

それでも、登りでは息切れの回数が多く、ペースもしょうより明らかに遅かったのは事実です。体が軽ければ、同じ高さを上がるのに必要な力は小さくて済みます。下りで膝にかかる負担も同じことです。

これは根性の話ではなく、単純な負荷の話です。だいが体を変えようと決めた経緯は登れなくなる前に|体重100kg超の理学療法士が、登山のために体を変えることにしたに書いています。次の富士山は、軽くなった体で登りたいと思っています。

② 山小屋をもっと早く予約する

今回泊まった鳥居荘は、予約開始からすぐに満室となり、キャンセル待ちで確保した一室でした。その経緯は富士山の山小屋、どうやって予約した?4日後にはキャンセル待ちだった【吉田口・実録】に詳しく書いています。

結果的には泊まれましたが、行程の自由度は確実に下がりました。早く動けば、泊まる場所を選べます。

③ もう少し上の山小屋に泊まる

誤解のないように書いておくと、1日目をゆっくり歩いたこと自体は、今も正解だったと思っています。変えたいのは歩き方ではなく、その日のゴール地点です。

本七合目に泊まったことで、1日目は3時間弱で終わりました。そのぶん翌日は、山頂まで4時間40分を歩くことになります。同じようにゆっくり歩いて、もう少し上の小屋に入れていれば、2日目の負担を分散できました。ご来光の時刻に合わせる調整も、もっと楽になります。

これは①とも関係します。上の小屋ほど人気があり、早く埋まります。


まとめ:富士山は、終わってから教えてくれることがある

3本の記事で、1泊2日の富士登山を記録してきました。最後に、下山から学んだことをまとめます。

  • 下山は3時間30分で標高差およそ1,400m。登りより短い時間で、体にはより大きな負担がかかります
  • しょうは下り始めて30分で左膝が痛み出し、腸脛靭帯炎で3週間の安静になりました
  • だいはふくらはぎ → 太ももの前 → お尻 → 背中の順に痛み、消えるまで2〜4日かかりました
  • 下りでは筋肉が引き伸ばされながら力を出すため、その場で自覚しにくい負担が蓄積します
  • だからこそ、疲れていなくても、決めた間隔で休む必要があります

私たちは下山で88分間止まりませんでした。登りではあれだけ休憩を計算していたのに、下りではできていません。登頂という目標を達成したあと、気持ちが緩んでいたのだと思います。

それが今回の膝の痛みに直接つながったのかどうかは、わかりません。しかし、理学療法士の2人組が、自分たちで書いた休み方を下りで守れなかったことは事実です。その結果として、1人は3週間、山にも通勤にも苦労することになりました。

富士山は、登っているあいだだけの山ではありません。下りてから数日、人によっては数週間かけて、体が結果を教えてくれます。

山頂に立つことがゴールではありません。無事に下りて、翌週もいつもどおり歩けていること。それがゴールです。

次に登るときは、この記録を自分たちで読み返すつもりです。

五合目の売店前で手にしたソフトクリーム。1泊2日の富士登山はここで終わった


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本記事の内容は、私たちの実体験と理学療法士としての知見に基づいています。腸脛靭帯炎の診断および安静期間は、しょう個人に対して医師が判断したものであり、同じ症状のすべての方に当てはまるものではありません。筋肉痛の出方や回復にかかる日数にも大きな個人差があります。登山中・登山後に痛みが出た場合は、自己判断で我慢せず、医療機関にご相談ください。