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✅ 結論:1日目は「ゆっくり登る」ことが肝心です

  • 五合目から本七合目・鳥居荘まで、3.5km・登り620mを休憩込みの2時間58分で歩きました
  • 休憩を含めた1時間あたりの標高上昇は約209m。以前「目安」としてお伝えした200〜300mの、ちょうど下限です
  • 一方、歩いていた時間だけで計算すると約288mと上限近くでした。速く歩いた分を、休憩を長く取ることで打ち消しています
  • 体格に差のある2人で登りましたが、遅いほうにペースを合わせた結果、翌日に疲れを持ち越さずに済みました
  • 1日目に飛ばした分は、本番である翌日の深夜から早朝にかけて返ってきます

2026年8月16日、私たちは富士山の吉田ルートを登りました。しょうとの2人です。

前日までの予報は雨でした。中止も頭をよぎりましたが、当日の朝に見上げた空は、雲の切れ間から青がのぞいていました。

なお、天気が崩れそうなときに「登るか、やめるか」をどう決めるかは、子連れ登山、この天気なら中止|風速・雨・雷の数字と、迷ったときの考え方【理学療法士】にまとめています。富士山は標高が高く、ふもとの予報とは条件が大きく変わります。予報が悪い日に「とりあえず行ってみる」という決め方は、おすすめできません。

この日のゴールは山頂ではありません。本七合目にある「鳥居荘」という山小屋です。標高は約2,900m(出典:鳥居荘 公式サイト)。五合目からの標高差は600mほどで、休憩を入れても3時間かからない行程です。

数字だけ見れば、物足りない一日かもしれません。しかし私たちは、この3時間をあえてゆっくり歩きました。本番が、翌日の深夜から始まるからです。

富士登山を山小屋泊で計画している方から、よく聞かれることがあります。「1日目はどれくらいのペースで歩けばいいのか」「山小屋とは、実際どんなところなのか」。予約の取り方は調べればわかりますが、当日の中身はなかなか出てきません。

この記事では、その1日目を時刻つきで記録しました。

この記事でわかること

  • 2026年の吉田ルートの通行料・事前予約・装備チェックの実際
  • 五合目から本七合目・鳥居荘までの、区間ごとの実測コースタイム
  • 理学療法士として意識した「登りのペース」の具体的な数字
  • 山小屋に着いてから眠るまでに、実際に何をしたか

目次

  1. 1日目の記録(データ)
  2. 五合目から六合目:まだ「登山」が始まらない道
  3. 六合目から七合目:ここから岩場が始まる
  4. 理学療法士として実測した「登りのペース」
  5. 本七合目・鳥居荘の夜
  6. まとめ:1日目は、翌日のためにある一日です

1日目の記録(データ)

はじめに、この日の記録をまとめておきます。すべて登山アプリで計測した実測値です。

項目記録
日付2026年8月16日(日)
ルート吉田ルート(富士スバルライン五合目 → 本七合目)
距離3.5km
登った高さ620m(累積)
行動時間2時間58分(10:20 〜 13:20)
うち休憩49分
1時間あたりの標高上昇約209m(休憩を含めた計算)
宿泊本七合目・鳥居荘(標高約2,900m)
天気曇りときどき晴れ(前日までの予報は雨)

区間ごとの実測コースタイム

時刻地点
10:20五合目 出発
10:33泉ヶ滝
10:53 〜 10:59六合目・富士山安全指導センター
11:55 〜 11:59花小屋(七合目の入口)
12:02 〜 12:29日の出館(27分休憩)
12:33 〜 12:34七合目トモエ館
12:42 〜 12:43鎌岩館
12:54 〜 13:04富士一館
13:20本七合目・鳥居荘 到着

表を見てわかるとおり、歩いた時間は2時間09分です。残りの49分は立ち止まっていた時間で、行動時間の約4分の1を休憩に使いました。

なお、この記事の時間・距離・標高は、すべて登山アプリの計測値です。表の時刻は分単位で表示しているため、出発と到着の時刻から引き算すると3時間ちょうどになりますが、アプリの記録は2時間58分でした。五合目から鳥居荘までの標高差はおよそ600mですが、累積の登りが620mとやや多いのは、途中に下り坂(59m分)が含まれているためです。

この配分は、偶然ではありません。何をどう考えてこの歩き方にしたのかを、次から順に書いていきます。


五合目から六合目:まだ「登山」が始まらない道

富士スバルライン五合目の「富士箱根伊豆国立公園 富士山」と書かれた看板。ここが出発点

登り始める前の1時間に、していたこと

シャトルバスを降りて私たちが最初にしたのは、登ることではありませんでした。

  • 軽い体操とストレッチで体を起こす
  • お店をひととおり眺める
  • トイレを済ませる
  • 二人で、この日と翌日の計画をもう一度確認する

これだけのことをして、五合目に着いてから歩き出すまでに約1時間が過ぎました。

私たちは以前、富士登山、今からでも間に合う|理学療法士が教える残り1ヶ月の体づくりと持ち物リストという記事で、「五合目に着いたらすぐ登らず、1時間ゆっくり過ごしてください」とお伝えしました。今回は、自分たちが書いたとおりに過ごしたことになります。

理由は標高です。富士スバルライン五合目は標高約2,300m。平地より気圧が低く、空気が薄い場所です。体がその環境に慣れないうちに登り始めると、標高が高くなってから一気に体調が崩れます。

ただ、「1時間ゆっくりする」と言われても、何もせずに待つのは意外と難しいものです。そこでやることを先に決めておくと、1時間はあっという間に過ぎます。私たちの場合は、体操・買い物・トイレ・打ち合わせの4つでした。

登山道の入口の手前に、ゲートがあります

五合目での1時間には、省けない用事がもうひとつありました。通行料の支払いと、装備のチェックです。

2026年の吉田ルートでは、登山道の入口の手前にゲートが設けられています。ここを通るには1人4,000円の通行料が必要です。山小屋に泊まる場合も、宿泊料とは別にかかります(出典:富士登山オフィシャルサイト)。

私たちは事前に予約と決済を済ませてありました。当日その場で支払うこともできますが、先に済ませておくと流れがかなり楽になります。

そして、ここで装備のチェックを受けました。靴やレインウェアなどを確認されます。当日の朝に慌てて揃えるものではない、ということです。必要な装備は富士登山、今からでも間に合う|理学療法士が教える残り1ヶ月の体づくりと持ち物リストにまとめています。

ゲートで受け取ったのが、この2つです。

赤いリストバンド(通行証)と、2026 Mt.Fujiと焼き印された木札。富士山麓の赤松材で作られている

赤いリストバンドが通行証、木の札が記念の木札です。木札は事前に予約した人にだけ配られ、数にも限りがあります。予約をしておく理由は、支払いの手間を省くことだけではありません。

このほか、2026年の吉田ルートには次の決まりがあります。

  • 開山期間は7月1日から9月10日まで
  • 1日の登山者が4,000人に達すると、ゲートが閉まります
  • 14時から翌3時までは通行できません。ただし、山小屋に泊まる人は、この時間と人数の制限の対象外です

私たちが歩き出したのは10時20分で、しかも山小屋泊でした。そのため、この制限で困る場面はありませんでした。しかし日帰りで登る場合、14時という締め切りは行程そのものを左右します。

なお、料金も期間もルールも年によって変わります。登る年の最新の案内を必ず確認してください。

最初の13分は、実は下り坂です

10時20分、五合目を出発しました。13分歩いて、10時33分に泉ヶ滝を通過しています。

記録を見返すと、この日は620m登った一方で、59m下っていました。五合目から泉ヶ滝までの道が、ゆるやかな下り坂だからです。

ここが、ひとつめの落とし穴だと思っています。出発直後で体力は満タン、しかも道は下り。自然と足が前に出て、気づかないうちにペースが上がります。そして帰りは、疲れた体でこの区間を登り返すことになります。

私たちは意識して歩幅を狭くし、ゆっくり下りました。

馬が歩き、木が生えている道

泉ヶ滝から六合目までは、森の中のゆるやかな登りが続きます。木の根が張り出した道を進んでいると、観光客を乗せた馬とすれ違いました。

樹林帯の広い土の道。観光客を乗せた馬が歩いている(五合目〜六合目)

この区間は、まだ「登山」という感じがしません。すれ違う人も軽装が多く、富士山というより、どこかの低山を歩いているような景色が続きます。

10時53分、六合目にある富士山安全指導センターに到着しました。ここで6分休憩を取り、10時59分に出発しています。

そして、ここから先で景色が変わります。木がなくなり、茶色い砂と岩だけの斜面が、見上げるほど上まで続いていました。


六合目から七合目:ここから岩場が始まる

いちばん長い56分は、ジグザグの砂の道でした

六合目を10時59分に出発してから、次の花小屋に着くまで56分かかっています。この日、いちばん長く歩き続けた区間です。

森が終わり、茶色い砂と小石の斜面を、大きなジグザグを描きながら登っていきます。日差しを遮るものが何もないため、雲がかかると急に涼しくなり、晴れると照りつけられます。

この日は雲の出入りが激しく、真っ白で何も見えない時間と、眼下に雲海が広がる時間が交互にやってきました。前日までの予報が雨だったことを思えば、十分すぎる天気です。

ただ、景色が単調なぶん、「まだ着かないのか」という気持ちになりやすい区間でもありました。

花小屋から先は、山小屋が階段のように並んでいます

11時55分、花小屋に到着しました。ここが七合目の入口です。

ここから道の様子が変わります。砂の斜面が岩場に変わり、ところどころで手を使って体を引き上げる場面が出てきます。鎖やロープが張られた箇所もあります。

ロープが張られた岩まじりの斜面を、ザックを背負って登っていくところ(七合目付近)

そして、山小屋が次々に現れます。記録を並べると、こうなります。

時刻山小屋
11:55花小屋
12:02日の出館
12:33七合目トモエ館
12:42鎌岩館
12:54富士一館
13:20本七合目 鳥居荘

丸太づくりの壁に掛かる「七合目 トモエ館」の木製看板。七合目には山小屋が次々と現れる

花小屋から鳥居荘まで、1時間25分のあいだに6軒です。岩場を登っては小屋、また登っては小屋、という繰り返しが続きます。

これは、歩くうえでは心強い環境です。トイレも、飲み物も、腰を下ろせる場所も、常に次が見えています。体調に不安が出たときに「あと少しで小屋がある」と思えるかどうかは、精神的な負担をかなり左右します。

日の出館で、27分間止まりました

12時02分に日の出館へ着き、出発したのは12時29分でした。27分間、ここで止まっています。この日でいちばん長い休憩です。

なぜここで長く取ったのかは、次の章でお話しします。

赤い鳥居をくぐると、その日のゴールです

富士一館を13時04分に出てから、16分。見上げた先に、赤い鳥居が立っていました。

この鳥居をくぐった先が、その日の宿である本七合目・鳥居荘です。13時20分、到着しました。

歩いた時間は2時間09分。時刻はまだ昼過ぎで、思ったよりも早く着いたというのが正直な感想です。

ただ、順調に進んだから早かった、という話ではありません。実際には、だいのほうに疲れが出ていて、余裕をもって休憩を取りながら登っていました。

言い換えると、歩いているときの速さは、少し速すぎたのだと思います。そのぶんを、止まる時間で調整していました。

その調整を、数字で見ていきます。


理学療法士として実測した「登りのペース」

休憩込みなら209m、歩いているときだけなら288m

この日は620mの標高を、2時間58分かけて登りました。1時間あたりに直すと、約209mです。

私たちは富士登山、今からでも間に合うで「1時間に標高200〜300m上がるペースが目安」とお伝えしています。この目安は、休憩を含めた時間で計算したものです。209mは、ちょうどその下限にあたります。

ところが、実際に足を動かしていた時間だけで計算し直すと、話が変わります。歩いていたのは2時間09分でした。620mをこの時間で割ると、1時間あたり約288mになります。今度は目安の上限近くです。

数え方1時間あたりの標高上昇目安(200〜300m)との関係
休憩を含めた2時間58分で計算約209mちょうど下限
歩いていた2時間09分で計算約288m上限に近い

同じ一日の記録なのに、数え方を変えるだけで下限と上限を行き来します。

そして、この差がこの日の実態でした。歩いているときの速さは目安の上限近くまで上がっていたものの、休憩を多めに取ったことで、1日を通すと下限に収まっていたということです。

ペース配分は、休憩時間も含めて考えると管理しやすくなります

理想を言えば、歩く速さも休憩時間も、計画したとおりに進むのが一番です。

しかし、本番ではなかなかそうなりません。勾配が変われば足の動きは変わりますし、久しぶりの山で気持ちが高ぶれば自然と速くなります。前後を歩く人のペースに釣られることもあります。その日の疲れ方も、事前にどれだけシミュレーションをしたところで、完璧には読めません。

歩く速さだけで調整しようとすると、計画からずれるのが当たり前だと考えておいたほうが現実的です。

そこで私たちは、歩く速さに加えて、休憩時間でも調整するようにしています。少し速く歩きすぎたと感じたら、次の休憩を長めに取る。思ったより余裕があれば、短く切り上げて先に進む。この2つを組み合わせると、1日を通した平均は計画の範囲に収まりやすくなります。

この日が、まさにそうでした。歩いているときは目安の上限近くまで上がっていましたが、休憩で調整した結果、1日の平均は下限の209mに落ち着いています。

49分の休憩を、どこで取ったか

まず、3章で保留した答えから書きます。日の出館で27分も止まったのは、だいに疲れが出ていたからです。歩けなくなるような疲れではありませんでしたが、このまま同じペースで進むべきではないと判断しました。つまりこの27分は、歩くペースが少し速すぎたことへの調整でもありました。

そのうえで、この日の休憩をすべて並べます。

止まった場所止まった時間
六合目・安全指導センター6分
花小屋4分
日の出館27分
七合目トモエ館1分
鎌岩館1分
富士一館10分

私たちは登山で差がつく休み方|疲れを残さない小休止・大休止の使い分けという記事で、短く整える「小休止」は5〜10分、しっかり休む「大休止」は20〜30分、そして歩き始めて30分で最初の休憩を入れることをおすすめしています。

今回の記録を、その基準に当てはめてみます。

  • 最初の休憩は33分後でした。目安の30分とほぼ同じで、ここは守れています
  • 日の出館の27分は、時間としては大休止にあたります。ただし、しっかりした食事はとっていません。行動食を口にしながら、体を冷やさないように軽くストレッチをして過ごしました
  • 花小屋の4分は短すぎました。56分歩いた直後なので、本来はもう少し取るべき場面です
  • トモエ館と鎌岩館の1分は、休憩と呼べるものではありません。実際には立ち止まって写真を撮った程度です

自分たちの記事に書いたとおりにできていた部分と、できていなかった部分が、はっきり出ました。

それでも結果として破綻しなかった理由は、2つあると考えています。

ひとつは、日の出館の27分と富士一館の10分という、長めの休憩を2回置いていたことです。細かい休憩が足りなくても、長い休憩を要所に入れておけば、1日の平均ペースは落とせます。

もうひとつは、止まっているあいだも、体を動かし続けていたことです。日の出館では体が冷えないように軽くストレッチをし、富士一館では立ったまま足を動かしていました。先ほどの休み方の記事で「休む=完全に止まることではない」と書いたことを、結果としてそのまま実行していたことになります。

標高の高い場所では、止まった瞬間に体が冷えます。座り込んで完全に静止すると、歩き出しが重くなるだけでなく、体温も奪われます。動きながら休むことには、回復と保温の両方の意味があります。

体重105kgの体で、何が起きていたか

正直に書きます。この日、だいはしょうより明らかにペースが遅く、息切れする回数も多くありました。

理由ははっきりしています。体が重いほど、同じ高さまで体を持ち上げるのに必要なエネルギーは大きくなります。体力があるかないか以前の、単純な話です。だいの体重は、当時105kgでした。この体で標高を620m上げるということは、それだけの重さを620m分、持ち上げたということになります。

息が上がるのは、当然のことでした。

一方で、足の痛みはまったく出ていません。膝も、ふくらはぎも、足の裏も、この日は何ともありませんでした。

ここは分けて考える必要があります。息が上がるのは心臓と肺の話で、止まって呼吸を整えれば戻ります。足を痛めるのは組織のダメージで、休んでも簡単には戻りません。1日目に守るべきなのは、後者です。

息切れを恥ずかしがって無理に速く歩き、足を痛めてしまうことのほうが、はるかに取り返しがつきません。

なお、だいが体を変えようと決めた経緯は登れなくなる前に|体重100kg超の理学療法士が、登山のために体を変えることにしたに書いています。この富士登山は、その宣言から2週間後の山行でした。

2人以上で登るなら、遅いほうに合わせてください

複数人で登るとき、どちらのペースに合わせるかは、出発前に決めておいたほうがいいです。

私たちは、遅いほう、つまりだいに合わせました。しょうにとっては物足りない速さだったはずですが、この日に関してはそれが正解でした。しょうにも高山病の症状は出ず、2人とも体調を崩さずに山小屋まで到着しています。

速い人に合わせると、遅い人は休憩で回復しきる前に歩き出すことになります。それが積み重なると、後半で急に動けなくなります。

結果として、私たちは翌日に足のダメージを持ち越さずに済みました。深夜0時すぎに起きて山頂を目指す行程において、これは小さくない意味を持ちます。


本七合目・鳥居荘の夜

赤い鳥居の先にある、標高2,900mの宿

鳥居荘は、その名のとおり赤い鳥居が目印の山小屋です。標高は約2,900m(出典:鳥居荘 公式サイト)。吉田ルートの本七合目にあります。

「本七合目 鳥居荘」と朱色で彫られた木の看板。この日のゴール

なお、この鳥居荘を予約するまでの経緯は、富士山の山小屋、どうやって予約した?4日後にはキャンセル待ちだった【吉田口・実録】に書いています。予約開始とほぼ同時に満室となり、キャンセル待ちで押さえた一室でした。

到着した13時20分は曇っていました。ときどき雲が切れて日が差し、またすぐに白一色に戻る。そんな天気が続いていました。

それでも、翌朝の出発まで、ここが私たちの家になります。

夕食は、カレーでした

鳥居荘の夕食はカレーです。

山小屋の食事に多くを期待してはいけない、とよく言われます。実際、下界のレストランと比べれば、質素な一皿であることは間違いありません。

しかし、標高2,900mという場所で、温かいものが出てくるという事実そのものに価値があります。実際にここまで登ってきた私たちは、そのありがたみを実感しています。かみしめる思いで、おいしくいただきました。

鳥居荘の夕食のカレーライス。2人分が並ぶ。標高2,900mで食べる温かい食事

歯を磨いて、家族に電話をしました

食事のあと、歯を磨きました。山の上であっても、できることは下界と同じようにやっておいたほうが、気持ちが落ち着きます。

そのあと、妻と娘にビデオ通話をかけました。

娘が生まれたのは、2週間ほど前のことです。画面の向こうには、その娘と妻がいました。

ここで、だいがひとつだけ言わなかったことがあります。翌日、山頂の郵便局から家族に手紙を出すつもりでいることです。

家を出るときも、いつもどおりの会話でした。「久しぶりの登山、楽しんでくるね」。妻からは「気をつけてね」と返ってきました。それだけです。この夜の電話でも、やはり何も言いませんでした。

その話は、この連載の2本目に書きます。

寝る前にやった、2つのこと

眠る前に、私たちは2つのことをしました。

ひとつめは、ストレッチです。これは二人それぞれが、自分の体に合わせて行いました。この日は足に痛みが出ていませんでしたが、出ていないうちにほぐしておくことに意味があります。痛くなってから対処するより、はるかに負担が小さくて済みます。

ふたつめは、翌日の行動計画の確認です。何時に小屋を出るか、どこで休むか、山頂に何時に着きたいか。しょうと二人で、声に出して確認しました。

これは、暗い中を歩き始める山行では特に大切だと考えています。深夜の富士山は、ヘッドライトの明かりが数珠つなぎに続く独特の環境です。寝ぼけた頭のまま、その列に流されて歩き出すと、自分のペースを見失います。

実際に私たちが小屋を出たのは、翌日の0時07分でした。

事前の準備で、睡眠の質は上げられます

山小屋は、見知らぬ人とすぐ隣り合って眠る場所です。寝袋が隙間なく並び、物音もいびきも、そのまま届きます。

今回、私たちは耳栓とアイマスクを持っていきませんでした。結果として眠ることはできましたが、持っていれば、もう少し安心して横になれたとは思います。かさばるものではありませんし、使わなければそれでいい程度の荷物です。

山小屋で眠れるかどうかは、翌日の体力に直結します。ここは運に任せず、準備で手当てできる部分だと考えています。


まとめ:1日目は、翌日のためにある一日です

この日歩いたのは3.5km、登った高さは620m、かかった時間は3時間でした。数字だけを見れば、わざわざ記事にするほどの行程ではありません。

しかし、1日目の役割は距離を稼ぐことではありません。翌日、万全の体で深夜の暗闇に出発することです。その目的から見れば、この物足りなさこそが正解でした。

今回の1日目から、持ち帰っていただきたいことが3つあります。

ひとつめは、五合目で1時間を使うことです。何もせずに待つのは難しいので、体操・買い物・トイレ・打ち合わせのように、やることを先に決めておくと過ごしやすくなります。

ふたつめは、歩く速さと休憩時間の両方で調整することです。歩く速さだけで管理しようとすると、勾配にも気持ちにも周囲のペースにも引っ張られて、計画どおりにはいきません。速く歩きすぎたと感じたら次の休憩を長めに取る。この二の矢があるだけで、1日の平均は驚くほど安定します。

みっつめは、息切れと足の痛みを分けて考えることです。息が上がるのは止まれば戻りますが、足のダメージは簡単には戻りません。守るべきなのは足のほうです。

私たちは、この3つを守って本七合目にたどり着きました。「思ったより早く着いた」で終わる一日で、十分なのだと思います。

翌日は0時07分に小屋を出て、山頂を目指しました。その先に、この連載でいちばん書きたかった出来事が待っています。続きは富士山頂の郵便局から、生まれたばかりの娘に手紙を出しましたでお伝えします。

さらに、下山でこの日いちばんの代償を払うことになります。そちらは富士山の下山3時間30分で、体に何が起きたか|筋肉痛と腸脛靭帯炎にまとめました。


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本記事の内容は、私たちの実体験と理学療法士としての知見に基づいていますが、体調や体力には個人差があります。コースタイムや体の反応は人によって異なります。体調に不安がある場合は専門家・医療機関にご相談ください。